クルマでもバイクでも、私はWako’sのケミカル類をよく使います。
Wako’sは私と同じく1972年生まれ、神奈川県小田原市に本拠を置くケミカルメーカーです。
クルマ(BMW F10)の整備ではあまりグリースを使うことがなかったのですが、風雨にさらされる箇所の多いバイクでは、自転車と同様に、要部分のグリースアップが重要なようです。
グリースというのは、液状のオイルを保持することができない部分に使われる潤滑剤で、液状のベースオイル(基油と呼ばれるようです)に増ちょう材を添加し、半固形状に調合したものです。
グリースの特性はベースオイルと増ちょう剤の種類によって大きく異なり、それぞれの用途に最適な調合がなされます。
Wako’sのグリースのカタログを見ても、数多くがラインアップされています。
問題は、じゃ、バイクのメンテナンス用途ではどのグリースを使うのがよいの?、ということです。
Wako’sの本社代表番号に電話し、技術営業の方に確認しました。
結論として、バイクの用途ではマルチパーパスグリース(以下、MPG)が最適だとのこと。
ネット上ではこれよりも少し価格の高いハイマルチグリース(HMG)が最適だとの意見が多かったことから、この回答は少し意外ではあったのですが、理由をよくよくお聞きし、十分に納得できました。
MPGがバイク整備に最適な理由は、増ちょう剤の種類にあります。
MPG、およびHMGの増ちょう剤は、それぞれリチウム石鹸、ウレアです。
リチウム石鹸は金属石鹸の一種で、リチウムイオンと長鎖脂肪酸の塩です。つまり、非極性の長鎖脂肪酸は同じく非極性のベースオイルと親和し、塩のもう一方のリチウムイオン同士もまた親和することでミセルを形成し、ベースオイルに粘性を付与します。
風雨にさらされる機会の多いバイクにおいては、グリースに水が接触した際の挙動が重要になります。
増ちょう剤がリチウム石鹸の場合、ミセルの核となっているリチウムイオンには極性がありますから、同じく極性を持つ水が接触すれば、リチウムイオンが水を取り込み乳化します。つまり、水がグリース系内に取り込まれ、放出されることがないため、グリースの潤滑しているベアリングが水が曝されることはありません。そう、ベアリングを錆びさせることがないのです。
このことが、Wako’sの技術営業担当者がバイクのメンテナンスにMPGを推す最大の理由でした。
一方のウレアは、ウレア基(-NH-CO-NH-)をベースとした高分子であり、この高分子の網目構造がベースオイルを絡めとることにより粘性を付与します。ベースオイルもウレア基も非極性ですので、極性液体である水との親和性は皆無です。
つまり、ウレア系グリースは水を弾く性質があり、グリース系内への水の侵入を阻止する働きがある一方、一旦系内に水が侵入してしまえば、グリスと水の親和性がないために、それを系外に押し出そうとします。そう、グリース系外、つまり保護すべきベアリングの方に水を押し出し滞留させ、錆の原因にしてしまうのです。
もちろん、いくらMPGに水を取り込む(乳化させるさせる)作用があるといっても、乳化すれば性能は低下しますし、無限に水を取り込めるわけでもありません。ですので、定期的なグリース交換が必要なことはいうまでもありません。
バイク周辺でグリースアップの必要な摺動箇所は、ホイールベアリング、ステアリングコラム、スイングアームのピポット部といったあたりでしょうか。
これら各箇所でも、ベアリングにかかるせん断速度や極圧は異なります。しかし、MPGはこれらの差異を十分に吸収する性能をもつため、これ1本でバイク各所のグリースアップは完結するとのこと。
なお、MPGには増ちょう剤の添加量によりちょう度1とちょう度2の2種類がラインアップされています。バイクの整備に最適なのは、ちょう度2の品名MPG-G2です。
ただし、この梱包では使い勝手がイマイチ・・・。
こんなグリースガンと共に利用すると、特にベアリングのグリスアップなどでは利便性がグンとアップするでしょう。
さあ、最適なグリースとグリースガンを入手し、マメなメンテナンスでバイクの好調を維持しましょう!
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