Kindle書籍刊行のお知らせ


ドイツ車のDIYメンテナンスについて、書籍にまとめました。本ブログで紹介している具体的なメンテナンス方法に留まらず、ドイツ車の思想、整備のポイントをまとめ、メンテナンスに必要な工具類の紹介、部品調達の実例紹介、メンテナンス対象の油脂類や部品の劣化メカニズムまでを紹介しています。

kindle unlimitedで無料ダウンロードしてご覧ください。

詳細はこちら

漆器 -使い込むほどに強度を増し色味を変える、日本古来の器-

愛用の定番品
輪島塗の椀と、飛騨春慶塗の小物入れ

 漆器は、木を削りだして形成した器に天然塗料である漆を重ね塗りして乾燥させた、日本古来の器です。

 漆器の一形態である蒔絵は16世紀後半に輸出されヨーロッパ諸国の王侯貴族を魅了、この頃から漆器は海外で”japan”と呼ばれるようになりました。器に特定の国名が冠されるのは、この漆器 (japan)以外には骨灰磁器 (bone china)をおいてほかに私は知りません。

 漆器の美的な魅力は、深み感のある色艶と漆塗面の持つふっくら感にあります。

 特に黒漆の黒色は漆と鉄の化学反応で得た特殊色 (漆の主成分であるウルシオールと鉄が反応したウルシオール鉄塩の色)で、「漆黒 (しっこく)」や「鳥の濡れ羽色」と呼ばれ趣味人を魅了します。

 漆器はまた、実用品としての魅力も併せ持ちます。

 漆器の表面は強靭性と柔軟性の両方の特性を持ち、酸やアルカリ、塩分、アルコールに強く、さらに耐水性、断熱性、防腐性を伴うため、食器や家具といった実用品に適します。漆がはるか昔、縄文の頃から接着や装飾に用いられてきたころからも、その実用性の高さがうかがえます。

 上記の魅力は、漆器表面に塗られた「漆塗料」の特性が作り出すものです。

 多くの塗料は、塗膜形成成分、顔料等を有機溶媒に分散させ流動性を持たせたものです。塗工後は常温、あるいは加温下で有機溶媒を蒸発させると塗料が乾燥します。この乾燥工程に必要なのは温度だけであり、「湿度」は必要ありません。

 ところが、漆の乾燥には「湿度」が必須の要素となります。漆塗膜は、漆の主成分であるウルシオール (モノマー)が漆に含まれるラッカーゼ酵素の作用 (酸化-還元サイクル)を得て酸化重合 (ポリマー化)したもので、ラッカーゼ酵素の作用促進のためには湿度が必須となります。このため、塗りたての漆は湿度が70 %RHの漆室 (うるしむろ)で初期乾燥処理が行われるのです。

 漆がその内部に至るまで完全乾燥するには非常に時間がかかる、つまり長い時間をかけて湿気や水分を必要とするため、使えば使うほど (汁物を入れたり洗ったりするほど)強さを増すことになるのです。さらに、この乾燥過程では漆自体の色も変化していきます。黒色以外の漆は「透き漆」を分散媒として顔料を分散させていますが、乾燥初期段階の透き漆の色は褐色 (あめ色)であるため顔料本来の発色は得られません (顔料の色をあめ色のフィルターを通して見ることになるため、暗く、鮮やかさに欠けて見える)。しかし、使い続けることで漆の乾燥が促進され、それに伴い透き漆の色が透明に変化していきます。この段階になって顔料本来の発色が発揮されるわけで、使えば使うほど漆器の色の鮮やかさが増すというのは、ここに由来しているのです。

 使い込むほどに強度、また美しさを増す漆器ですが、永く愛用するために注意しなければならない点はなにでしょうか?

 それは、紫外線と過度な乾燥、高温です。漆は紫外線で劣化するため、直射日光に当たる場所に保管してはいけません。また、乾燥、高温も大敵ですので、食器乾燥機の使用は控えた方がよいでしょう。漆器はそもそもギトギトに器を汚してしまう食品 (油たっぷりの肉料理など)に用いる器ではありませんので、食器乾燥機など使用しなくとも使用後にサッと水洗い、あるいは少々の洗剤で洗うだけで十分に汚れは落ちるはずです。表面を傷つけないために、たわしの使用は避けましょう。

 こうしてみれば、漆は人肌だと考えて手入れするとよいですね。紫外線、乾燥、高温、過度な洗浄は、漆と同様に人肌も嫌う要素です。

 ご存知のように、漆器の産地はただひとつではありません、北は青森から南は沖縄まで、日本国内で何十もの産地があり、それぞれが独自の魅力を持っています。まずは自分のお気に入りを探し、それを大事に使いこみながら「育てて」みてはいかがでしょうか。

=====
本稿の執筆にあたり、自分の持っていた知見に加え、下記の文献等を参照させていただきました。

1. 漆の伝統美を化学する (宮腰哲雄, 科学と教育, 61 第3巻, 2013年)
2. グリーンポリマー漆の化学と工業塗装への応用 (宮腰哲雄ほか, ネットワークポリマー, vol. 31 No.5, 2010年)
3. 漆と高分子 (宮腰哲雄, 高分子, 56巻 8月号, 2007年)
4. 一般社団法人色材協会 コラム vol. 07 (大藪泰)
5. 黒江屋ホームページ
6. 漆器の伊助ホームページ
7. 山久漆工株式会社ホームページ
8. 漆工房錦壽ホームページ
=====

今回は、ここまで。
次の機会にお会いしましょう!

* いいねボタンでのご評価をお願いいたします!
*よりよいページにするために、皆様からのコメント、アドバイス、リクエスト、ご質問等々を大歓迎いたします。ページ下部のコメント欄から、ぜひお寄せ願います!


コメント

タイトルとURLをコピーしました