*2021.10.に、内容更新しました。
東北地方では出羽山脈が南北に走っており、冬場は太平洋側から出羽山脈を越え日本海側に入ると景色が一変します。まさに、「トンネルを抜けると、そこは雪国だった」を実体験できるわけです。
宮城県と山形県の県境で考えると、太平洋側の最後の町が鳴子温泉郷で、芭蕉が一夜を過ごした尿前の関の先のトンネルを超えると途端に一面の銀世界が視界に広がります。この瞬間、私はけっこう好きです。トンネルを抜けてしばらく走ると、山形県最上町に入ります。この先は進めば進むほど雪が深くなり、また建物が豪雪仕様に変わっていきますので、トンネルを抜けて10㎞も走ればまるで世界が変わってしまったような感覚にとらわれます。
その豪雪の最上町にある温泉郷のひとつが瀬見温泉郷で、中世の室町の頃から続く古湯です。義経・弁慶が発見したとも伝えられ、温泉街のいたるところにその足跡が残っています。
温泉街の旅館、また共同湯までもが改装/新装を繰り返し新しくなっていくなか、ひときわ目を引く旅館がここ喜至楼です。
冒頭のアイキャッチ写真は本館で、上は別館を撮影したものです。
どうですか!この堂々たる佇まいは!!
外観ばかりでなく旅館内部もレトロそのもの、この雰囲気に参り何度も足を運んでいます。
喜至楼は山形県最古の旅館建築で、明治・大正・昭和の建物が混在した旅館です。名に「楼」と付くので旧遊郭か、と思われる方も多いかもしれませんが、こちらが遊郭であったことはなく、建造当初から純粋な旅館として営業されてきたようです。
館内を、とっくりとご案内差し上げましょう。
本館入口では、おかみや福の神々がお出迎え。写真左の奥、古い時計の下には大黒天の像がありますが、その下の箱は金庫だそうです。ちなみに、その後ろのふすまの奥は宿の方の住居になっているようでした。とっても、うらやましい・・・。
さあ、趣ある室内を通って部屋に向かいましょう。時代時代で改装や建増しをしたからでしょうか、迷路のようになりながらも品は失われていません。
こちらが、今晩のお部屋です。歴史ある本館の角部屋、初秋の山形は少し寒くなってはきましたが、窓を開ければ気持ちのよい風が部屋を過ぎていきます。
少し休んだところで、風呂に向かいましょう。
喜至楼には、2つの貸切風呂のほか、4つの共同浴場があります。
●ローマ式千人風呂
ローマ時代の様子をモチーフにしたタイル画に囲まれた円形の風呂です。千人が一度に入浴できるかどうかはわかりませんが、かなりの大きさです。この浴室の奥に岩の浴室もありますが、ここはぬるくて気持ちがいい。ずっと入っていられます。本館1Fにあります。
●岩風呂
ローマ式千人風呂の横にある岩風呂です。
●あたたまり湯
こちらも、ローマ式千人風呂の横にある浴室です。
●オランダ風呂
別館2Fにあるタイル貼りの浴場です。雰囲気があり大きさも適当、喜至楼のなかで私の一番好きなのがこちらのオランダ風呂です。
瀬見温泉名物のふかし湯部屋もありますが、いまひとつ楽しみ方がわからず、この日はスキップしました。
風呂の入り口には、こんなかわいい標識があります。
ふかし湯の入り口は、こちら。また、こちらが私の好きなオランダ風呂。その他の風呂については喜至楼のホームページをご参照ください。
さてと、開放的な自炊場で今宵の肴を準備しましょうか。
本を読みながら、酒を呑みます。この頃は中世ヨーロッパ社会の研究者 阿部謹也の本を愛読していました。後でご紹介しますが、彼の「日本には社会はない。あるのは世間だけだ。」との説は、日本社会の窮屈な部分 (世間の間尺に合わないものを皆で寄ってたかって糾弾する、排除する (村八分))のの形成を考えるうえで非常に有効だと感じました。
初秋の今回は気付きませんでしたが、初冬に再訪したとき、「もしかして瀬見温泉は体を冷やす温泉か?」と感じました。温泉につかっているときはよいのですが、あがると体が冷えるのです。もう一度冬に訪れた時も、同じ印象でした。
これはまったくの私見ですが、この温泉は夏の盛りに訪れるのがよいと私は考えています。
2017.11.29の再訪時は、最上の初雪の日でした。
初雪にもかかわらず、翌日はかなりの積雪が。クルマに長靴と雪かき棒を準備しておいたのが役に立ちました。
なお、雪道ドライブへの備えについては、こちらをご参照ください。
日が差すと、景色は一変。
やっぱり、雪国は雪が降ったときがイチバン綺麗なんです!!
ちなみに、前の晩に読んでいた本はこちら。
この頃の将来の夢は、蕎麦屋になること!
科学の力を味方に均質で旨い蕎麦を効率よく打ち、自分で仕留めた天然ジビエを使ったつまみや鴨南蛮を名物にしてガッチリ稼いでやろう!!と目論んでいました。
3年経ったいま、過去の夢はいずこへ?
新しい夢を持ち、日々精進しています!!(苦笑)
退職されたのちもなお、アドバイスをいただける諸先輩方に深謝しています。
なお、蕎麦屋なんちゃって修業時代に学んだ万能調味料、本返しについてはこちらで紹介しています。
最上には、小国川の鮎やら縄文のビーナスやら蕎麦やら、見どころ食べどころがたくさんあります。今回併せてご紹介しようと考えていましたが、喜至楼だけで一杯になってしまいました。次回以降のお楽しみとさせてください。
喜至楼の空室検索、ご予約は、こちらから。
瀬見温泉といえば私は喜至楼の一択でしたが、普通の旅館好きの同僚のイチオシはこちらでした。接客が非常に心地よいとのことで、何度も訪れていました。
喜至楼の詳細は、同館のホームページでご確認ください。
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本のご紹介
1. 「世間」とは何か (阿部謹也, 講談社現代新書, 1995)
欧米にはなく日本固有のもの、その一つが「世間」という考え方であると著者はいいます。欧米には「社会」という概念はあるが「世間」とは全く違った概念である。「世間」は社会よりももっと狭い、我々の生活単位+αのコミュニティーの総論と言い換えることができ (これは、私の解釈です)、「世間の目が」「世間に顔が立たない」といった、子供の頃から聞かされ我々も感覚では理解できるが言葉、殊に外国語では決して説明のできないフレーズにつながります。しいていえば、日本社会は「みんなのなかのひとり」として生きることを強要し、ある「みんな」の中の暗黙の常識を「世間」というのかもしれません。当たり前すぎてほとんど考えることのなかった「世間」を、ドイツ中世史学者が日本の文学における「世間」の変遷、また海外社会との比較から斬り込んみ、なるほど!とうなずける一冊になっています。
2. 同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか (鴻上尚史、佐藤直樹, 講談社現代新書, 2020)
上記1. ではじめて「世間」を意識したところで、たまたま本屋で発見した本です。大震災のような未曽有の事態においても冷静な判断ができるなど、世界から絶賛される特質を持つ一方で、間尺に合わぬ、あるいは暗黙のルールを破った個人を徹底してつるし上げる、村八分という日本人なら誰でも知っている陰湿な余所者排除を強行するなど、日本社会には個人主義の発達した諸外国に比べて非常に息苦しい側面もあります。これを日本独自の「世間」という概念から斬り込んだ書籍で、いま渦中にあるコロナが浮き彫りにした日本社会の「ヘン」な部分をも俎上においた最新刊になっています。
3. 遊郭に泊まる (関根 虎洸, とんぼの本, 2018)
かつて遊郭であったが廃業し、現在は旅館として営業を続けるレトロ建築の数々を紹介した本です。今回ご紹介した喜至楼は掲載されていませんが (もとが遊郭ではないので当然ですが)、紹介されている建物群のすべてが強烈なオーラを放っています!私が行ってみたいのは、青森県八戸市の「新むつ旅館」です。
4. 日本ボロ宿紀行 (上明戸聡, 鉄人文庫, 2017)
いつも、次の旅の参考にさせてもらっています!
5. 日本ボロ宿紀行 2 (上明戸聡, 鉄人文庫, 2018)
同上
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